軍事境界線から見た北朝鮮
ほんの数日前に北朝鮮からミサイルが発射された9月のある日、僕の心配はソウル発の非武装地帯見学ツアーが中止にならないかだけに尽きていた。
とりあえずツアー会社からは何の知らせも無い。不安を抱きながらLCCでソウルへ旅立った。
非武装地帯とは?その成り立ち
北朝鮮と韓国の曖昧な境目。国境ではなく「軍事境界線」を持つ非武装地帯とは何なのか?
その歴史は第2次世界対戦後、ソ連と米国によって南北に支配が分かれた朝鮮半島が、北朝鮮と韓国の2国に独立したところから始まる。
1950年6月早朝、祖国統一の名のもとに北朝鮮は韓国に侵攻し、韓国はあっというまに90%近く攻め込まれてしまう。
韓国はアメリカに助けを求め、応じたアメリカの呼びかけにより国連は国連軍を組織。
国連軍の仁川上陸作戦から戦局は一気に巻き返し、北朝鮮はギリギリまで撤退するはめに。
*国連軍の北上イメージ図のつもり。
しかし民主主義連合軍とも言える国連軍に自国近くまで迫られた中国が北朝鮮側に参軍、国連軍を押し返す。
38度線あたりまで戻された戦線は泥沼の膠着状態となり、ついに決着がつかないまま停戦となった。
韓国も北朝鮮も朝鮮半島全土が自国の領土であるという主張は崩さない*1ものの、停戦するにあたって、とりあえず38度線を中心に半径2kmは軍備を配置しない「非武装地帯」と定めて、韓国も北朝鮮もお互いが自由に往来できる平和的なエリアにしてみた……当初は。
その後、死傷者が出るイザコザがいくつか発生した結果、38度線を越えた交流は断絶し、今となっては武装した両国が睨み合う最前線。
全くもって非武装でもなんでもなくなり、整備された土地や道路以外は地雷だらけで人が立ち入れず。おかげで自然が豊かになり、希少な動植物が生息する放置後のラピュタのような場所となっている。
ツアーの申し込み方と旅行の注意点
ツアーは現地のツアー会社で直接申し込むこともできるが、身元の確認やらで、手続きに数日掛かる。(知り合ったバックパッカーの参加者に聞いたら5日を要したとのこと)
なので、前もって日本でWebから申し込みするのが現実的。僕はポイントが少し溜まっていたので、VELTRAのツアーを利用した。
*アフェリエイトじゃないから1円も入ってきません。安心してクリックして下さい。
ツアーにはいくつかの種類があるが、韓国・北朝鮮の軍事境界線を間近に見ることができるのは「板門店」行きと書いてあるツアーになる。
ただ、板門店に行くだけのツアーは移動時間が長い割に見学時間が短く、物足りないと感じる人もいるかと。
せっかくなので値段は高くなるが「第3トンネル」や「展望台」などを含めた1日ツアーのほうが楽しめると思う。
板門店ツアーの注意事項
注意が多い多い。
- Tシャツ、短パン、ミニスカート、ダメージ加工のジーンズ、サンダル、派手な服、レザー、スポーツチームのロゴが入ったキャップや服、ブランドのロゴが柄になっている服、迷彩柄は禁止。
どこのレストランだ…。
なお、ジーンズは米国を連想させるから禁止だそう。 - ツアーの途中で昼食があるが飲酒禁止。(板門店に行かない参加者は飲める)
- 90mm以上の交換レンズは持参不可…なんだけど、フルサイズで?APS-Cやマイクロフォーサーズは…?
では、実際どこまで厳格に上記を確認されるのか。
事前にツアー体験者のブログをいくつか読んでみたが、ある人はほぼノーチェックと書いているし、ある人はレンズの長さで注意を受けたなど、各人の感想がまちまちだ。
結局どうなの?ツアー当日、ガイドに教えてもらった。
まず、非武装地帯でも境界線である板門店周辺は米軍の指揮下にあり、ツアーは完全に米兵主導で実施される。そのため、チェックの厳しさは、当日担当する米兵の経験や気分による、というのが正解だった。
なおツアー中はカバンを持ってバスを降りることが出来ない。写真好きの方は張り切ってたくさん交換レンズを持参したところで筋トレにもならないので注意したい。
ツアーの概要
参加当日、韓国人であるガイド曰く「自分のガイド人生の中でも、今が一番北朝鮮と緊迫している状況」とのことだったが、無事ツアーは実施された。
訪れたスポットを面白かった順でさっと紹介したい。
板門店(軍事境界線)
青の建物と灰色の建物が合計5つ。青が国連、灰色が北朝鮮の所有物。
ツアーの事前に、北朝鮮兵に対して手を振ったり話しかけたりしないようキツく注意されていたのだが、この日はツアー客が来る前にカーテンを閉じて建物に閉じこもってしまったとのこと。
間近で北朝鮮兵を見れるのかと楽しみにしていたのに…
建物に入り、窓から観た風景。盛り上がっているコンクリートが軍事境界線で右の土側が韓国、左の砂利側が北朝鮮。
室内には憲兵が2人立っている。1人は境界線上に、もう1人は北朝鮮へと続く扉の前。
*テーブル上の旗が軍事境界線。南北の会談が行われる場合はこれを挟んで対峙する。
*扉の向こうは北朝鮮。開けたら試合終了だ。
建物内は軍事境界線を越えて自由に移動していい。単に部屋を歩いただけだが、ほんの少し北朝鮮側に踏み込めたのは興奮した。
都羅山駅
韓国と北朝鮮を結ぶ鉄道「京義線」の韓国側最北の駅。次の駅は北朝鮮の首都平壌。
1000ウォン(約100円)の入場券を購入すると駅舎が見学ができる。
*入場券と駅の入場口。切符は完全に記念品。入り口のステンレスの棒は切符の所持と関係なく、押せば入れる。
*次は終点平壌。電車が来たら鉄オタの気合が試されることだろう。
展望台
北朝鮮を見渡すことができるスポット。
双眼鏡が設置されており、北朝鮮の見張り台や村などが覗き込める。ここから見える村は北朝鮮の豊かさを示すため昼間だけ人がいるハリボテ。ガイドはイカサマ村と呼んでいたが、まるで映画のセットだ。
双眼鏡は有料なので、500ウォン硬貨(約50円)が必要。売店があるので両替ができるかもしれないが、念のため事前に準備しておきたい。
この日はあいにく霧が強かったが、天気が良いとかなり遠くまで見通せるとのこと。
第3トンネル
北朝鮮は停戦後も裏でコツコツと韓国侵攻用のトンネルを掘っており、現在のところ4本発見されている。
掘削音を隠すために雨が強い日を選んで健気に掘り進めたそうだが、健闘虚しく韓国に見つかってしまい、近未来型のトロッコを敷設された上に観光地化されてしまった。
以上。
こんな記事では書ききれないほど、ツアー中はガイドから歴史的な経緯や韓国と北朝鮮の複雑な関係を説明してもらえ、様々な知識と考えさせられる宿題を持ち帰った。*2
そんなリアルな緊張感と歴史を感じられる軍事境界線ツアー、オススメです。