香港の飽きるほど金の仏像を堪能できる寺
香港滞在の二日目、夕方前。
ショッピングに興味が無い自分は友人と別れ、晩御飯までの時間を潰しに地下鉄の沙田駅から徒歩10分ほどにある「萬仏寺」へと向かった。
萬仏寺は香港の官公庁「沙田政府合署(Sha Tin Government Offices)」の裏手に入口がある。
沙田政府合署は正面から見ると綺麗で近代的なビル。しかし、横道に入るや路面の舗装はデッコンボッコンに乱れ、その上には工事の産廃やゴミが積まれた荒んだ風景に変わる。
そこにはTシャツを腹で捲った贅肉丸出しの労働者たちが、たむろして喫煙しており、そばを通り抜けるのにも無駄に緊張が走る。
そもそも寺の所在地がビルの裏にある丘の頂上、という時点で分かり難いのだけれど、その入口は野生のサルがうろちょろする雑木林になっており、本当にここが寺の敷地なのか不安でいちいち小心者には堪える…。
雑木林を抜けると萬仏寺へと続く登り道と金の仏像が編隊となって現れた。
このコンクリ金ペンキ仏像は寺までの道のりに500体も並ぶ上に、本堂には一万二千体以上の仏像があるらしい。
1体につき1秒見たとしてトータルで3時間以上掛かるなあ…。そこまでの信心は持ち合わせていないが、頂上を目指して登り始めた。
最初は一体ずつ異なる仏像の表情を写真に収めながら、じっくり見物していたが、15分もすると珍な造形をしている奴しか目に留まらなくなってくる。
そこから30分も過ぎると、仏像に対する態度は無視に近くなる。ただ黙々と歩き、極めて珍品が現れた時だけ意識を取り戻して写真を撮るルーチン。
12月とはいえ気温は20度を超えており背中は汗まみれ。夏に来なくて良かった…。
ズームレンズを装着した一眼レフカメラを首から下げながら、こんな外装のハゲた仏像を撮影するのに単焦点の交換レンズなんかいらんかったな…など、ネガティブな思考に汚染されていると、ようやく本堂らしき建物が現れた。
正門の前に立つが、閉まっていて入場できない。何か中国語の説明がぶら下がっているので読むと、たぶん開館時間が9時から17時まで、と書いてあると思われる。
時刻はすでに18時過ぎ。門から見える範囲は関係者含めて全くの無人で、絶対に入れない感じの100%の閉館だった。
階段を登っている最中からずっと、なんでこんなに来訪者が少ないのかと疑問に思ってはいたが悲しい形で謎は解かれた。
帰ろう…。
ここで日没。空が急速に落ちてもう夜。
階段の街灯が仏像を照らすと、日中の愉快な変顔から陰影の濃い薄ら怖い姿になり、気分を盛り下げる。
だるい膝で階段を下る。
さすが香港、夜景が綺麗だ。そしてこの街灯りの距離。遠いなあ…。
最後までスタッフも観光客もゼロの道のりが終わり、ようやく入口まで戻った。
出口に通じる雑木林を通ると、野生のサルがこちらに向かってぎゃあぎゃあと叫んでいる。夜行性なのか?襲い掛かってきそうな威嚇がマジで怖い。
疲れた。
その夜のチンタオビールは格別に進んだ。